INTRODUCTION

ケネス・ブラナーの幼少期を投影した自伝的作品。
故郷への郷愁とリスペクトを
英国・アイルランド実力派俳優たちの競演で魅せる、
泣き笑いの人生賛歌
本作は、北アイルランド ベルファスト出身のケネス・ブラナー(製作・監督・脚本)が自身の幼少期を投影した自伝的作品。本作は、第46回トロント国際映画祭にて最高賞にあたる観客賞受賞を皮切りに、実に55映画祭33受賞195ノミネート (2022年1月時点)で賞レースを席巻し、本年度アカデミー賞®最有力候補として名乗りをあげた。9歳の少年バディの目線を通して、愛と笑顔と興奮に満ちた日常から一変、激動の時代に翻弄され様変わりしていく故郷ベルファストを克明に映し出す。

少年バディを演じたのは本作が映画デビューとなる新星ジュード・ヒル。祖母グラニーには世界的大女優ジュディ・デンチ(『007』シリーズ)。そのほか、母親役にはカトリーナ・バルフ(『マネーモンスター』)、父親役にはジェイミー・ドーナン(『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』)、祖父役にはキアラン・ハインズ(『裏切りのサーカス』)など英国とアイルランドの実力派俳優たちが集結し、本作に圧倒的なリアリティをもたらしている。

ノスタルジックで力強いモノクロ映像が描き出すのは、ある少年とその家族の厳しくも愛に満ちた永遠の記憶だ。抗うことのできない時代の変化に戸惑い葛藤しながらも、一方で、決してうつ向くことなく、笑顔とユーモアで未来へ一歩踏み出すタフな人々の姿は、コロナ禍で様変わりした世界を生きる現代のわたしたちにも強い共感をもたらすに違いない。変わりゆく故郷、移り行く時代を前に、何があろうとも決して変わることのない人間の気高さと生命力をパワフルに魅せる傑作がここに誕生した。
監督の言葉
DIRECTOR'S COMMENT
『ベルファスト』は
とてもパーソナルな作品だ。
私が愛した場所、愛した人たちの物語だ。
製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー

STORY

1969年、激動の北アイルランド ベルファスト。
僕が生まれ育ったその町には、
歌があった、映画があった、家族がいた――
そして、愛に輝く日々があった。
ベルファストで生まれ育ったバディ(ジュード・ヒル)は家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。たくさんの笑顔と愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの暴徒が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々のなか、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。

HISTORICAL BACKGROUND

この映画が描く1960年代末は、いわゆる「北アイルランド紛争」(英語で “the Troubles”)へ突入していった時代だった。プロテスタントとカトリックが反目し、1998年の和平合意に至るまでに3600人近い死者を出した。

 カトリックvsプロテスタントという対立の根は16世紀の宗教改革にある。キリスト教の最大教派ローマ・カトリック教会に対して反旗が翻され、そうした対抗諸宗派はまとめて「プロテスタント」と呼ばれた。イングランドは、国王ヘンリー8世の離婚問題をきっかけにローマ・カトリックから離反する。国の勢力を拡大していく過程でイングランドは隣のアイルランド島への植民に力を入れ、プロテスタント植民者が土着のカトリックから土地を奪うという構造ができあがっていった。17世紀末にはプロテスタント優位体制が確立、1801年にアイルランドはグレートブリテン王国に併合される。アイルランドの自治復権を目指すその後の長い闘争は、20世紀になってようやく実ることになる。血みどろの独立戦争の末、1921年にイギリスとアイルランドは条約を締結、プロテスタントが多数派のアイルランド島北部6州が「北アイルランド」としてイギリス領に残り、島の残りは「アイルランド自由国」として自治を獲得、実質的独立を果たした。

 1960年代、米国の公民権運動に影響され、北アイルランドではカトリックに対する差別撤廃を求める運動が盛り上がる。この運動には少なからぬプロテスタントの人々も賛同していたが、デモ行進などはプロテスタントによる過剰反応を呼び、双方の対立は暴力化していった。人々は、「カトリック」対「プロテスタント」というレッテル、または「ナショナリスト」(アイルランド全島で一つの国家【ネイション】となることを目指す)対「ユニオニスト」(北アイルランドがブリテンと連合【ユニオン】している現状を維持する)というレッテルを貼られて二分されたのである。

――解説:佐藤泰人(東洋大学准教授・日本アイルランド協会理事)

CAST & CHARACTER

カトリーナ・バルフ(母さん役)
Caitriona Balfe(as Ma)
1979年10月4日生まれ、アイルランド ダブリン出身。
ダブリン技術学院在学中にファッションモデルとしてデビュー。ドルチェ&ガッバーナ、ボッテガ・ヴェネタ、H&M、オスカー・デ・ラ・レンタなどの多くのブランドの広告やキャンペーンに登場し、10年以上ランウェイでも活躍した後、演技の世界へ転向。女優としては、『SUPER8/スーパーエイト』(11)、『グランド・イリュージョン』(13)、『大脱出』(13)に出演し世界的に知られることとなる。主な代表作に、『マネーモンスター』(16)、『フォードvsフェラーリ』(19)などがある。
〔母さん〕
バディと兄ウィルの母親だ。彼女はベルファストの労働者階級に属する母親で、よく笑い、すぐカッとなる、愛情あふれる妻だ。夫に腹を立てた時には皿を1、2枚投げつけることさえためらわない。子煩悩で、自分を支えてくれる親戚や友達が住む地元のことを愛している。派手ではないけれど、周囲とは一線を画す魅力があって、贅沢はできないし流行品もなかなか手に入らないけれど、シンプルでカジュアルだがすてきな着こなしをしていた。
ジュディ・デンチ(ばあちゃん役)
Judi Dench(as Granny)
1934年12月9日生まれ、イギリス ヨーク出身。
ロンドンのセントラルスクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで演技を学び、数々の舞台に立つ。『The Third Secret』(64)でスクリーンデビュー。『眺めのいい部屋』(86)や『ヘンリー五世』(89)など古典劇から現代劇までこなす実力派。『007 ゴールデン・アイ』(95)以降の『007』シリーズのM役でも人気を博す。舞台では96年に異なる役でローレンス・オリビエ賞を2つ獲得する偉業を達成し、映画『恋におちたシェイクスピア』(98)ではアカデミー賞®助演女優賞を受賞。還暦をすぎてからも幅広く活躍している。主な代表作に、『ショコラ』(00)、『あるスキャンダルの覚え書き』(06)、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(11)、『あなたを抱きしめる日まで』(13)『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(17)、『ジョーンの秘密』(18)、『キャッツ』(19)など。
〔ばあちゃん〕
バディの祖母で、父さんの母親だ。彼女はバディの世話としつけにおいて重要な役割を担う人物だ。バディは毎日学校が終わると祖父母の家に行き、女の子にまつわる悩みや両親に関する心配事を打ち明ける。ロマンチストな祖父とは反対に、彼女のアドバイスは辛辣だが、知恵にあふれていた。家で主導権を握る現実主義の彼女は、たくましく快活な女性だ。
ジェイミー・ドーナン(父さん役)
Jamie Dornan(as Pa)
1982年5月1日生まれ、北アイルランド ベルファスト郊外のホリウッド出身。
カルバン・クラインやアルマーニ、ディオールなどの有名ブランドで活躍する人気モデルを経て、05年俳優に転身。ソフィア・コッポラ監督作『マリー・アントワネット』(06)で映画デビュー。ベストセラー小説を映画化した『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(15)のクリスチャン役で一躍注目を浴び、その2本の続編(『フィフティ・シェイズ・ダーカー』(17)『フィフティ・シェイズ・フリード』(18))にも出演。その他代表作に、『プライベート・ウォー』(18)、『フッド:ザ・ビギニング』(18)、『シンクロニック』(19)など。
〔父さん〕
バディの父親で建具工をしている。税金のことでちょっとしたトラブルを起こした後、給料が格段にいいイギリスで職を探すことになった。1~2週間に1度、愛する家族の元に戻ると、たちまち2人の息子を持つ子煩悩な父親へと変身し、時間を作っては子供たちと遊び、学校へ送り出し、家族を映画館に連れて行った。近くに住む両親“じいちゃんとばあちゃん”のことも愛していた。ベルファストを襲う危険を正確に理解しているのは父さんだけで、たびたび家を空ける彼は家族の身を案じている。何としてでも家族を守らなくてはと感じていた。
キアラン・ハインズ(じいちゃん役)
Ciarán Hinds(as Pop)
1953年2月9日生まれ、北アイルランド ベルファスト出身。
ベルファストのクイーンズ大学を中退し、俳優になるためにロンドンのRADA(王立音楽学校)に通った。その後、ピーター・ブルック演出作やサム・メンデス演出作、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなど多くの舞台で実績を重ね、ブロードウェイにも活躍の場を広げた。多くの映画にも出演しており、主な代表作は『ロード・トゥ・パーディション』(02)、『トゥームレイダー2』(03)、『アメイジング・グレイス』(06)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11)、『沈黙 -サイレンス-』(16)、『レッド・スパロー』(18)などがある。
〔じいちゃん〕
バディの祖父で、父さんの父親。根っからの‘ベルファストの男’だ。チャーミングでロマンチストな彼は、優しくて穏やかな性格だ。物静かだが皮肉っぽいユーモアがあって、ばあちゃんのことを一目見た時からずっと愛してきた。大好きな孫のバディには、算数のテストでズルを勧めるなど道徳的に疑わしいアドバイスをする。息子と同じように、若い頃はよりよい給料を求めてイギリスで働いていた。炭鉱員だった彼の肺は現在、病に侵されているが、家族と地域の人に愛されながら暮らしている。
ジュード・ヒル(バディ役)
Jude Hill(as Buddy)
北アイルランドのギルフォード出身。
本作で俳優として長編映画デビュー。今後も長編映画をはじめ、短編映画やテレビドラマなど幅広い活躍が期待される新星。
〔バディ〕
兄を持つ9歳の少年だ。両親と祖父母のことが大好きで、ある出来事が起きるまでは完璧といっていい人生を送っていた。近所の誰もが彼のことを知っていて、街は彼にとって安全な遊び場だった。イギリスから父親が持ち帰ってくるミニカーを集め、テレビや地元の映画館で大好きな映画を観るのが家族とのお決まりの行事だった。欲を言うとすれば、チョコレートの量を少し増やして、教会の時間を少し減らしたいということぐらいだ。地元の小学校に通い、成績はいつもクラスで上位をキープしていた。上位2位に入れば、意中の女の子、キャサリンの隣に座れるからだ。キャサリンとは大きくなったら結婚する予定だ。彼女に話しかける勇気が出ればのことだけど。

STAFF

ケネス・ブラナー(製作・監督・脚本)
Kenneth Branagh (Producer/Director /Screenplay)
1960年12月10日生まれ、北アイルランド ベルファスト出身。
RADA(王立演劇学校)を首席で卒業した後、23歳の時にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーへ入団し、数多くの舞台に立つ。BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)より名誉あるマイケル・バルコン賞を贈られたほか、アカデミー賞®では5つの異なる部門でノミネートされた。2013年には、演劇界ならびに地域への貢献を称えてナイトの爵位を授与された。主な監督・出演の映画は、『ヘンリー五世』(89)、『愛と死の間で』(91)、『から騒ぎ』(93)、『フランケンシュタイン』(94)、『ハムレット』(96)、『エージェント:ライアン』(14)、『オリエント急行殺人事件』(17)。監督した主な映画作品は『マイティ・ソー』(11)、『シンデレラ』(15)、『アルテミスと妖精の身代金』(19)。主な出演映画に『オセロ』(95)、『相続人』(97)、『セレブリティ』(98)、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(99)、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(02)、『ワルキューレ』(08)、『マリリン 7日間の恋』(11)、『マインドホーン』(16)、『ダンケルク』(17)、『オリエント急行殺人事件』(18)、『シェイクスピアの庭』(18)、『TENET テネット』(20)などがある。2022年公開予定の『ナイル殺人事件』では製作・監督・主演を務める。